独仏的クルマ生活

ドイツ車のような奥さんとフランス車のような私のカーライフエッセイ

#88 ロードプライシングって効果あるの?

 

先週(2023年7月22日)から、東京湾アクアラインで、時間帯によって通行料金を変動させる「ロードプライシング」が、試験的に導入されることになりました

「こんなの、効果あるのかしら?」と奥さん

「さぁ、どうかね?」

「だって、800円が1,200円でしょ!」

「そうだね・・」

「子供が一緒なら、20時まで待てないわよ!」

東京湾アクアラインの「ロードプライシング」とは?

以下、siryou2.pdf (chiba.lg.jp)より引用

今回アクアラインで実施される「ロードプライシング」は、土日の13時~20時に、アクアライン上り線をETCで通行した場合、通常より料金を引き上げる、というもの

ちょうど混雑する時間帯の料金を高くして、渋滞を緩和しようっていう試みですね

その代わり、混まない時間帯(20時~24時)に通行した場合は、逆に料金が引き下げられます

対象となるのは「ETC」を使用する全車両で、期間は来年の3月31日までとなっています

料金設定の根拠は、以下のとおり(普通車の場合)

これを見ると、普通車の「ETC料金」って、定価は1,960円なんですね

アクアライン通行料金の変遷

「ETC料金」の定価も驚きましたが、そもそもアクアラインの通行料金(非ETC)は、3,140円だったって知ってました?(普通車の場合)

ETCアクアライン割引・ETC時間帯別料金 | ドラぷら(NEXCO東日本) (driveplaza.com)より

そう言えば、アクアラインが開通した当初(1997年/平成9年)は、普通車の通行料金が4,000円だったのを思い出しました

料金は高いけど、木更津から羽田空港までわずか20分で行けるというので、利用者は1日2万台以上と試算していましたが、いざ始まると1日1万台も行かない状況でした

東京湾アクアラインの料金割引 ツギノジダイ (asahi.com)より

そこで、平成12年から3,000円に値下げされましたが、平成26年には3,090円となり、現在は3,140円になっています(普通車の場合)

平成14年からは「ETC」が使えるようになりました

当初の「ETC料金」は2,320円に設定されましたが、平成26年に1,920円になり、現在は1,960円になっているというわけです(普通車の場合)

そして、平成21年からは「ETC料金」を大幅に引き下げることで、首都圏(特に千葉県)に、どれぐらいの経済効果があるかを検証する「社会実験」が始まりました

これによって、普通車の「ETC料金」が800円になったわけですね

料金引き下げによって、経済効果はあったのか?

国土交通省の資料によると(001473533.pdf (mlit.go.jp))、料金引き下げによる経済効果は、平成26年からの2年半で、約1,155億円(首都圏全体)あったそうです

特に千葉県では全体の75%に当たる869億円もの経済効果があったそうで、値下げ前と比べると、利用交通量は約2.1倍、観光客も1.2~2.0倍になったそうです

社会実験に伴う割引分は、国と千葉県で、約5億円/年ずつ折半しているそうなので、それ以上の経済効果があったってことですね

ということで、この割引は何度も期限を延長しており、次の期限は、令和7年(2025年)3月31日までとなっています

料金引き下げで、渋滞はどれぐらい増えたのか?

ただ、そのおかげで、渋滞する回数も、大幅に増えてしまいました

ちょうど料金が引き下げになった「平成21年度」と、「令和4年度」を比べてみると

・通行台数:29,302台/日 → 51,760台/日(1.77倍)

・渋滞回数:267回 → 2,073回(7.76倍)

渋滞の回数は、何と8倍近くも増えています

渋滞は、上り・下り共に増えていますが、特に上り線(川崎方面)の方が、増加率が高くなっているそうで・・

休日は、平日の3~7倍も、渋滞する数が多くなっています

東京湾アクアラインでは、1時間当たりの交通量が2,100台を超えると、急激に所要時間が伸びることが分かっているらしく・・

その2,100台/時間をずっと上回っているのが、休日上り線の13時~20時というわけです

そもそも「ロードプライシング」って何?

ロードプライシングは、特定の道路や地域、時間帯における自動車利用者に対して課金することにより、自動車利用の合理化や交通行動の転換を促し、自動車交通量の抑制を図る施策で、TDM(交通需要マネジメント)施策の一つです。交通渋滞や大気汚染の著しい地域に導入することにより、渋滞緩和と大気環境の改善に資することが期待されます。

ロードプライシング|東京都環境局 (tokyo.lg.jp)より

要は、高い料金を払うぐらいなら「別の道を通る」「課金されない時間に通る」「公共交通機関を利用する」と言った利用者心理を突いて、混雑を解消しようってことですね

元々は「混雑税」から生まれた「ロードプライシング」ですが、様々な実験(試行)や研究が重ねられて、その目的は多岐に渡るようになりました

ロードプライシングの目的とは

・交通渋滞対策

・交通公害対策

・エネルギー対策

・交通安全対策

・道路整備対策

・公共交通の拡充

・土地利用の適正化

一般財源の補充

都市部の交通混雑を解消するための「ロードプライシング」は、シンガポールやロンドンではすでに実施されて成果が出ているそうですが、日本はというと、東京都や鎌倉市京都市などで検討されましたが、いまのところ実際の導入までには至っていません

東京2020オリパラ「ロードプライシング」の効果は?

一般道路や特定地域では行われていませんが、首都高では実際に「ロードプライシング」が行われています

そのひとつが「東京2020オリンピック・パラリンピック」の開催期間中に行われた「ロードプライシング」です

目的は「選手やスタッフなど、大会関係者をスムーズに輸送するため」で、交通量の多い時間帯(6時~22時)に都内区間を通ると、通常料金に1,000円が上乗せされるというものでした

上乗せ対象はマイカーなどの自家用車両で、タクシーやトラックなどの業務用車両は対象外、また夜間(0時~4時)は、すべての車両(ETC車両)がすべての区間で、通常料金が半分となっていました

目標は、大会開催直前と比べて、都心部の交通量を10%減、首都高の交通量を最大30%減が目標だったそうです

では、実際に都心部の交通量(外環道の内側)はどうだったのか、というと・・

平日は、首都高で9~10%減少している一方、一般道はほとんど変化していない

土休日は、首都高で25~27%減少している一方、一般道は3%減少となっている

このことから、首都高の利用が一定量抑制された中で、一般道への過度な転換は発生していなかったものと考えられる

s2022-2-5.pdf (ibs.or.jp)より引用

首都高と一般道を合わせた交通量も、大会前より10%以上減少したそうで、当初の目標は達成していたってことですね

では、首都高だけをみてみると、どうだったんでしょう?

このグラフは「ETC車両」のみで、利用台数は首都高全入口の流入交通量の合計値で出してありますが・・

平日の場合

料金上乗せ時間帯(6~22時)の利用台数は、オリパラ期間を通じて、上乗せ対象車両が約25%減、対象外車両が数%減、全車両では15%減となっている。一方で、割引時間帯(0~4時)は、オリ期間で上乗せ対象車両が22%増、対象外車両が6%増、全体では9%増となっている。

s2022-2-5.pdf (ibs.or.jp)より引用

土休日の場合

料金上乗せ時間帯の利用台数は、上乗せ対象車両で32~40%減、対象外車両で7~10%減、全車両で25~31%減と、平日よりも減少率が大きくなっている。割引時間帯は、オリ期間で対象車両が12%増となっているが、対象外車両は6%減で、全体では1%増に留まっている

s2022-2-5.pdf (ibs.or.jp)より引用

これを見ると、料金上乗せ対象車両は、明らかに減っていますね

平日でも25%、土休日は時間帯によっては40%も減っていますから、1,000円の上乗せが、かなり効いたといったところでしょうか?

でも、対象外車両も平日で3~5%、土休日で7~10%減っていますから、「ロードプライシング」としての効果は、平日で20%程度、土休日で25~30%程度と考えた方が良いかもしれませんね(みんな、自主的に協力したんですね)

それでも、当初の目標をほぼ達成した、と言っても間違いはないと思います

東京2020オリパラ」と「東京湾アクアライン」の違い

東京2020オリパラでは「ロードプライシング」が効果を発揮したことはわかりましたが、今回の「東京湾アクアライン」とは、明らかに条件が違います

東京2020オリパラの場合は、「大会開催中は、一般車両は首都高に入ってくるな!」というメッセージが、ヒシヒシと伝わってきます

規制時間も6時~22時と長いですし、上乗せ料金の一律1,000円は、通常通行料からみても、かなりインパクトがあります(割引料金半分もインパクトがありますが・・)

でもアクアラインの場合は、「ここを通って欲しいけど、もう少しだけ分散してね!」って感じが滲み出ていますね

普通車の場合は、高くなると言っても400円ですし、割引もたった200円となれば、あまりメリットを感じないかもしれません

じゃあ、思い切って2倍(普通車なら800円プラス)にしたら、どうなんでしょうか?

例えば「袖ケ浦IC」から乗って、「新宿IC」で降りる場合を想定すると・・

アクアライン経由 ETC料金:2,030円、通常時間:0時間45分、距離46.8km

・京葉・館山道経由 ETC料金:2,860円、通常時間:1時間30分、距離88.3km

普通なら、アクアライン経由の方が830円安くて、45分も早く到着します

仮にアクアラインが多少渋滞してても、そりゃアクアラインを選択しますよね

でも800円上乗せになると、料金的なメリットは無くなるし、もし渋滞が解消していなければ、京葉・館山道経由の選択も出てきます

そして何よりも、料金が倍に上がったというインパクトが強すぎますね

そもそも、千葉県に来てもらうために料金を下げたのに、渋滞解消のために料金を上げたら、みんな千葉に来なくなった・・では、本末転倒な話です

いや~、利用者の気持ちを動かすって、結構難しいもんですね

東京湾アクアラインロードプライシング」の効果は?

それを検証するための「社会実験」ですから、来年3月になるまでその効果は分かりませんが・・

仮に今回の分散効果が、オリパラ休日の1/3(約10%)あったとすると、2,200~2,300台/時間が、1,980~2,070台/時間になり、渋滞ラインの2,100台/時間ギリギリ

1/2(15%)あったとすると、1,870~1,955台/時間ですから、やっと渋滞ラインを下回ります

う~ん、奥さんの言う通り、あまり効果は期待できないかも・・

せめて、20時以降の割引を半分(400円引き)にして、18時~20時にいろんなナイトイベントが開催されるのなら、20時以降の移動がもっと増えるでしょうね

そうなれば、夜の集客も出来るし、渋滞も緩和できるし、一石二鳥!

なんて・・勝手な予測です!